大規模災害時は看護配置・DPC基準の変更届が不要に?厚労省通知をわかりやすく解説

大規模災害が発生すると、医療機関では被災者の受入れによって入院患者が急増したり、被災地へ医師・看護師などの職員を派遣することで、自院のスタッフが一時的に不足したりすることがあります。
こうした非常時には、通常どおりの人員配置や施設基準を維持することが難しくなる場合があります。
厚生労働省は「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」において、一定の条件を満たす医療機関について、
看護配置などに1割以上の一時的な変動が生じても、変更の届出を行わなくてよい
という特例を示しています。
さらにDPC対象病院についても、災害による一時的な事情で参加基準を満たせなくなった場合の届出を不要とする取扱いがあります。
ただし重要なのが、
「届出不要=何もしなくていい」ではない
という点です。
災害による患者急増や職員不足について、医療機関側で記録し、保管しておくことが求められます。
今回は、この通知の(4)~(6)について分かりやすく解説します。
大規模災害では通常の人員配置を維持できないことがある
病院では、入院基本料などの診療報酬を算定するために、看護師などの人数や患者数との比率について一定の施設基準が定められています。
しかし大規模災害では、通常時にはない事態が発生します。
例えば、
被災者を大量に受け入れる↓入院患者が一時的に急増する↓患者数に対する看護職員等の配置割合が変化する
というケースがあります。
反対に、
被災地へ職員を派遣する↓自院で勤務する職員が一時的に減少する↓通常の人員配置基準から変動する
というケースも考えられます。
今回の特例は、こうした災害対応を行った医療機関が、診療報酬や施設基準上、不必要な不利益を受けないようにするためのものです。
1.看護師などの人数が1割以上変動しても変更届が不要
通常、施設基準に関係する人員配置などに一定以上の変動が生じた場合には、変更の届出が必要となることがあります。
しかし今回の通知では、被災者の受入れや被災地への職員派遣によって一時的な変動が生じた医療機関について、特例が認められています。
対象になるのは、例えば次のような職種です。
看護師
准看護師
看護補助者
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
管理栄養士
臨床検査技師
精神保健福祉士
公認心理師
これらの職員について、1日当たりの勤務人数に一時的な変動が生じた場合が対象となります。
「1割以上の変動」でも届出不要
今回の通知の大きなポイントは、
1割以上の一時的な変動があった場合でも変更届を行わなくてよい
と明確に示されていることです。
対象となるのは職員数だけではありません。
対象となる主な項目
① 1日当たり勤務する看護要員等の人数
看護師・准看護師・看護補助者などの人数です。
② リハビリ・医療専門職などの人数
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、臨床検査技師、精神保健福祉士、公認心理師などが対象となります。
③ 看護要員数と入院患者数の比率
被災者の受入れによって患者数が急増すれば、当然、看護要員1人当たりが担当する患者数にも変化が生じます。
こうした一時的な変動についても配慮されます。
④ 看護師・准看護師の中での看護師の比率
看護師と准看護師の構成比率について一時的な変化が生じた場合にも、一定の条件のもと変更届を不要とする取扱いとなっています。
具体的にはどんなケース?
例えば、ある病院が大規模災害の発生後に多数の被災者を受け入れたとします。
通常の入院患者数が100人だったところ、一時的に120人まで増加したとします。
患者数が急増したことで、看護師数と患者数の比率などが通常の施設基準から変動する可能性があります。
また別のケースでは、病院から看護師や理学療法士などを被災地支援のために派遣した結果、自院の勤務人数が一時的に減少することも考えられます。
このような、
「災害支援に伴う一時的な変動」
については、1割以上の変動があったとしても変更届を行わなくてよいという取扱いです。
2.DPC対象病院も「参加基準を満たさなくなった」という届出が不要
DPC対象病院についても特例があります。
DPC対象病院には、DPC制度へ参加するための一定の基準があります。
通常であれば、その参加基準を満たさなくなった場合には、所定の手続きが必要になります。
しかし、
被災者を受け入れたことで入院患者が一時的に急増した
被災地への職員派遣でスタッフが一時的に不足した
といった災害特有の事情によって基準を満たせなくなった場合については、
「DPC対象病院への参加基準を満たさなくなった場合」としての届出を行わなくてもよい
とされています。
DPC病院にとって非常に重要な特例
大規模災害時には、急性期病院を中心に多数の患者を受け入れる可能性があります。
その結果として、
患者数の急増↓職員配置の変化↓通常のDPC参加基準から一時的に外れる
という事態も考えられます。
災害対応を積極的に行った結果としてDPC制度上の不利益を受けることがないよう、手続きを柔軟にする仕組みです。
3.最重要ポイント「届出不要でも記録は必要」
今回の通知で、医療機関の実務上もっとも注意したいのがこの部分です。
(3)~(5)の特例によって変更届等を行わなかった医療機関は、
なぜ施設基準等に一時的な変動が生じたのかを記録し、保管しておく必要があります。
つまり、
届出は不要でも、記録は必要
です。
何を記録しておくべき?
通知では、
被災者を受け入れたことによって入院患者が一時的に急増したこと
被災地へ職員を派遣したことによって職員が一時的に不足したこと
について記録・保管することとされています。
実務上は、後から経緯を説明できるよう、例えば以下のような情報を整理しておくことが考えられます。
災害発生日
被災者を受け入れた期間
受け入れた患者数
入院患者数の変動
被災地へ職員を派遣した期間
派遣した職員の職種・人数
自院の勤務人数の変動
人員配置や患者比率に変動が生じた期間
災害対応による変動であることが分かる資料
通知本文に記録様式まで示されているわけではありませんが、後日確認が必要になった場合に、
「災害による一時的な変動だった」ことを説明できる状態にしておくこと
が重要です。
「届出不要」と「施設基準を無視してよい」は違う
ここは誤解しないよう注意が必要です。
今回の通知は、
災害時だから施設基準そのものを完全に無視してよい
という意味ではありません。
あくまで、
被災者の受入れや職員派遣という災害対応によって生じた一時的な変動について、通常必要となる変更届等を不要とする
という特例です。
そのため、災害と関係のない恒常的な職員不足や施設基準の変更まで、すべて届出不要になるわけではありません。
医療機関の実務で押さえたいポイント
今回の通知を医療機関側から整理すると、次の流れになります。
被災者を受け入れた場合
被災者受入れ↓入院患者が急増↓看護配置などが一時的に変動↓一定の場合は変更届不要↓ただし経緯を記録・保管
被災地へ職員を派遣した場合
医療スタッフを派遣↓自院の勤務職員が一時的に減少↓施設基準等に一時的な変動↓一定の場合は変更届不要↓ただし派遣状況などを記録・保管
非常にシンプルに言えば、
「災害支援による一時的な変動には柔軟に対応する。しかし、その理由はきちんと残しておく」
という制度設計です。
医事課だけでなく看護部・リハビリ部門にも共有を
今回の特例は、医事課だけが知っていればよい内容ではありません。
対象となる職種には、
看護師
准看護師
看護補助者
PT
OT
ST
管理栄養士
臨床検査技師
精神保健福祉士
公認心理師
など、多くの医療専門職が含まれています。
そのため平時から、
医事課・事務部門・看護部・リハビリ部門・栄養部門・検査部門・病院管理者
などで情報を共有しておくことが重要です。
災害が発生してから通知を読み始めるのではなく、どのような記録を残すのかまで院内で決めておくと、実際の災害対応がスムーズになります。
まとめ|大規模災害時は「届出不要+記録保管」がポイント
今回の厚生労働省通知(4)~(6)のポイントをまとめます。
被災者受入れで入院患者が一時的に急増した医療機関が対象
被災地への職員派遣でスタッフが一時的に不足した医療機関も対象
看護師・准看護師・看護補助者などの勤務人数の一時的な変動に配慮
PT・OT・ST・管理栄養士・臨床検査技師なども対象
看護要員と入院患者の比率などに1割以上の一時的な変動があっても、一定の場合は変更届不要
DPC対象病院も、災害による一時的な事情で参加基準を満たさなくなった場合の届出が不要
ただし、患者急増や職員派遣による人員不足について記録・保管が必要
最大のポイントは、
「届出は不要でも、記録は必ず残しておく」ということです。
大規模災害時には医療機関そのものが混乱する可能性があります。
だからこそ、平常時から災害対応時の人員配置、患者受入れ、職員派遣、記録方法などについて院内ルールを整備しておくことが重要です。
※本記事は、ご提示いただいた厚生労働省通知「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」の(4)~(6)を分かりやすく整理したものです。実際の施設基準・診療報酬請求等については、通知原文および地方厚生(支)局等の最新情報をご確認ください。
