「門前薬局規制」という名の既得権保護ではないのか患者負担と社会保険料を本気で下げるために問うべきこと
- 5 日前
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「門前薬局規制」という名の既得権保護ではないのか
患者負担と社会保険料を本気で下げるために問うべきこと
昨年、私は参議院予算委員会で、いわゆる「門前薬局」の問題を取り上げた。
大病院の正面や周辺に、5軒、6軒もの調剤薬局が並んでいる。患者は病院を出ると、そのまま目の前の薬局へ処方箋を持っていく。
この光景を、私たちはいつから「当たり前」だと思うようになったのだろうか。
浅草寺の仲見世では、それぞれの店が異なる商品やサービスを提供し、価格や品質、個性を競い合っている。ところが大病院の前に並ぶ調剤薬局は、基本的に同じ処方箋に基づき、同じ医薬品を扱う。
それにもかかわらず、患者にとって分かりやすい価格競争が行われているようには見えない。
病院の門前で、処方箋を持った患者が来るのを待つ。
この構造は、本当に患者本位の医療と言えるのだろうか。
薬代以外に何が支払われているのか
患者が病院で発行された処方箋を調剤薬局に持参すると、薬剤そのものの代金だけでなく、調剤基本料、調剤料、服薬管理に関する各種の評価などが加算される。
患者の窓口負担は、原則として医療費全体の1割から3割であるため、実際にかかった総額を意識しにくい。
窓口で支払う金額が比較的少なければ、患者は「薬を安く受け取れた」と感じるかもしれない。
しかし、残りの費用が消えてなくなるわけではない。
健康保険から支払われ、その原資は国民や企業が負担する社会保険料や公費である。
つまり、私たちが薬局の窓口で支払わなかった部分も、最終的には私たち自身が負担している。
問題は、調剤薬局が必要か不要かという単純な話ではない。
薬剤師による重複投薬の確認、飲み合わせの確認、服薬指導、在宅患者への対応などには重要な役割がある。
問うべきなのは、現在支払われている報酬が、実際に提供された専門的サービスの内容と見合っているのかという点だ。
薬を袋に入れ、説明書を添え、既製品の薬剤シートをまとめることだけで、高い報酬が発生する仕組みになっていないか。
専門性の高い業務と、単純な受け渡し業務が、報酬上きちんと区別されているのか。
ここを徹底的に検証しなければならない。
なぜ病院の前に薬局が集中するのか
本来の「医薬分業」は、医師と薬剤師がそれぞれの専門性を発揮し、処方内容を相互に確認することで、医療の安全性を高めるための制度だったはずだ。
ところが現実には、特定の病院や診療所から発行される処方箋に大きく依存する薬局が多数存在している。
患者が自由に薬局を選べる制度でありながら、実際には病院から最も近い薬局へ患者が集中する。
薬局側から見れば、病院の前に出店することで、継続的に処方箋が持ち込まれる。
一般的な小売業であれば、商品の魅力、接客、価格、利便性などを競わなければ顧客を獲得できない。
しかし門前薬局では、近隣病院の患者数と処方箋発行数によって、一定の需要が見込める。
この構造が、薬局経営を過度に「立地依存」「処方箋依存」にしてきたのではないか。
患者の健康を地域全体で支える薬局ではなく、特定医療機関から流れてくる処方箋を受け取ることが経営の中心になっていないか。
医薬分業の理念と、現在の門前薬局の実態には、大きな隔たりがある。
新規薬局への規制は、本当に改革なのか
今回の診療報酬改定では、都市部において、既存薬局から一定の距離内に新たに開業し、かつ特定医療機関への処方箋集中率が高い薬局について、調剤基本料を引き下げる方向性が示された。
表面的には、「これ以上、門前薬局を増やさないための規制」に見える。
門前薬局は問題である。
だから新規開業する薬局の報酬を引き下げ、参入しにくくする。
一見すると、医療費削減に向けた改革のように思える。
しかし、ここには重大な疑問がある。
規制の対象が主として新規開業薬局であれば、すでに好立地を確保している既存薬局はどうなるのか。
新規参入者だけが不利な報酬体系となれば、既存薬局の競争相手が減り、結果として既存事業者の地位が守られる可能性がある。
つまり、
門前薬局を規制する制度が、逆に既存の門前薬局の既得権を強化する。
そのような逆転現象が起きかねない。
本当に門前薬局の構造を問題視するのであれば、新規薬局だけを狙い撃ちするのではなく、既存薬局を含め、処方箋集中率、立地、業務内容、地域医療への貢献度を同じ基準で評価すべきではないか。
新しく参入する事業者だけに高いハードルを課し、すでに利益を得ている事業者の経営環境を事実上保護するのであれば、それは改革ではない。
既得権の固定化である。
「批判をかわすための改革」になっていないか
私は国会質疑において、大病院の周辺に多数の調剤薬局が密集している写真を示し、その異様な構造を指摘してきた。
また、自民党、公明党、日本維新の会による協議の場でも、この問題を取り上げた。
門前薬局をめぐる国民の視線が厳しくなっていることは、行政や業界団体も認識しているはずだ。
だからこそ、今回の規制が、本当に患者負担と社会保険料を減らすための制度なのか、慎重に見極めなければならない。
「門前薬局に規制をかけました」という外形だけを整え、批判をかわす。
その一方で、既存薬局の利益構造には大きく手をつけない。
仮にそのような制度設計であるならば、国民に対する説明として不十分である。
厚生労働省や関係団体は、少なくとも次の点を明らかにすべきだ。
新規薬局だけを厳しく評価する合理的な理由は何か。
既存の門前薬局に対しては、どのような見直しを行うのか。
制度変更によって、調剤医療費や患者負担が具体的にいくら削減されるのか。
既存薬局の競争環境や収益に、どのような影響が生じるのか。
これらを数字で示さない限り、「改革」という言葉だけを信用することはできない。
薬剤師の専門性を否定しているのではない
この問題を指摘すると、「薬剤師の仕事を軽視している」という反論が出ることがある。
しかし、それは論点のすり替えである。
薬剤師の専門性は重要だ。
高齢者の多剤服用、重複投薬、相互作用、副作用の確認、残薬調整、在宅医療への対応など、薬剤師が果たすべき役割はますます大きくなっている。
だからこそ、専門的な業務には正当な報酬を支払うべきだ。
一方で、専門性をほとんど必要としない単純な受け渡し業務にまで、高い報酬を一律に支払う必要があるのか。
問われているのは、薬剤師という職業の価値ではない。
報酬の決め方と、税金・保険料の使い方である。
本当に価値のある仕事を高く評価し、単純な作業への過剰な支払いを見直す。
それこそが、薬剤師の専門性を高め、国民の理解を得る道ではないだろうか。
社会保険料を下げるなら聖域をつくってはならない
現役世代の社会保険料負担は重い。
企業にとっても、社会保険料の事業主負担は賃上げや雇用の拡大を妨げる大きな要因になっている。
政府が本気で国民負担を軽減するというのであれば、医療費の中に存在する非効率な仕組みを、一つずつ検証しなければならない。
病院経営、医師の報酬、薬価、調剤報酬、医療機器、検査、介護、各種補助金。
どの分野にも聖域をつくるべきではない。
特定の業界団体の反発を恐れ、表面的な制度変更だけで問題を処理したことにする。
そのような政治を続けていれば、社会保険料は下がらない。
負担は国民に押しつけられ、既得権だけが温存される。
必要なのは新規参入規制ではなく、報酬体系の抜本改革だ
門前薬局問題を解決するために必要なのは、単に新しい薬局を開業しにくくすることではない。
既存薬局も新規薬局も同じ土俵に置き、実際に提供した医療サービスの価値に応じて報酬を支払う制度へ改めることである。
例えば、次のような改革が必要ではないか。
調剤報酬の内訳を患者に分かりやすく表示する
単純な薬剤交付と専門的な服薬管理を明確に区別する
特定医療機関への処方箋集中度を既存薬局も含めて評価する
在宅医療、夜間対応、残薬調整、多剤服用対策などを重点的に評価する
制度改定による医療費削減額を毎年公表する
業界団体との協議内容や政策決定過程の透明性を高める
患者が薬局ごとの費用やサービス内容を比較できる仕組みを整える
規制によって競争相手を減らすのではなく、サービスの質と費用を見える化し、患者が選べる環境をつくる。
それが本当の改革である。
医療費削減は、事実を明らかにすることから始まる
医療制度には、一般の国民から見えにくい複雑な報酬体系が数多く存在する。
制度が複雑であるほど、既得権は守られやすい。
「専門的な制度だから分からなくても仕方がない」と国民が諦めた瞬間に、負担の拡大は止められなくなる。
私は、門前薬局のすべてが悪いと言っているのではない。
患者に寄り添い、専門性を発揮し、地域医療に貢献している薬局は正当に評価されるべきだ。
しかし、病院の前で処方箋を受け取ることを中心としたビジネスモデルが、公的保険制度によって過剰に守られているのであれば、見直さなければならない。
新規参入を規制するだけで、既存事業者の利益構造を温存する制度を「改革」と呼んではならない。
誰が得をする制度なのか。
患者の負担は本当に減るのか。
社会保険料はいくら下がるのか。
既存薬局にも同じ改革が及ぶのか。
数字と事実によって検証する必要がある。
医療費を削減し、社会保険料を下げるためには、複雑に絡み合った利害関係と向き合わなければならない。
必要なのは、業界への感情的な攻撃ではない。
公開されたデータと明確な根拠に基づき、不合理な制度を一つずつ改めていくことだ。
国民が支払う保険料を、国民にとって本当に価値のある医療へ振り向ける。
そのための戦いを、私はこれからも続けていく。
関連書籍
門前薬局を含む、日本の社会保障制度や既得権構造については、拙著『日本国 不安の研究』(PHP研究所、2020年)でも詳しく論じている。
