【2026年最新】新たに保険適用される医療機器・検査とは?てんかん・尿失禁・副甲状腺手術など新技術を解説

医療技術は日々進歩していますが、新しい医療機器や検査が開発されたからといって、すぐに健康保険が使えるわけではありません。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)では、新しい医療機器や検査について、有効性や安全性、価格などを検討したうえで保険適用の可否や保険償還価格を決定しています。
2026年9月16日に示された資料では、2026年10月1日から保険収載予定の臨床検査2種類と、12月1日から保険収載予定の医療機器4種類が示されました。資料上は「予定」「案」の段階である点には注意が必要ですが、手術後の癒着、難治性てんかん、副甲状腺手術、男性の腹圧性尿失禁、抗酸菌感染症、HTLV-1関連脊髄症(HAM)と、幅広い分野に関係する内容です。
今回の保険適用で何が変わる?
今回注目したいのは、「新しい薬」が追加されるのではなく、診断や手術をより正確にしたり、これまで治療が難しかった患者さんに新しい選択肢を提供したりする医療技術が多く含まれている点です。
分野 | 新しい医療機器・検査 | 主な目的 |
外科・婦人科など | シーエスバリア | 手術後の癒着を減らす |
脳神経外科・てんかん | 細径深部電極・アンカーボルト | てんかん発作の原因部位を詳しく調べる |
甲状腺・副甲状腺手術 | PTeyeシステム | 副甲状腺を見つけやすくする |
泌尿器科 | セルーション セルセラピーキット SUI | 前立腺手術後の尿失禁を治療 |
感染症・呼吸器・泌尿器科 | MEBGEN抗酸菌核酸同定キット | 結核菌・非結核性抗酸菌などを同定 |
神経内科 | CXCL10 ELISA「コスミック」 | HAMの病気の活動性を評価 |
それぞれどのような技術なのか、分かりやすく見ていきましょう。
1.手術後の「癒着」を防ぐ新しい粉末製剤「シーエスバリア」
腹部や骨盤の手術後には、傷ついた組織同士がくっついてしまう「術後癒着」が起こることがあります。
癒着は腹痛や腸閉塞などの原因になることもあり、特に腹部手術では以前から重要な課題でした。
今回、新機能として保険適用予定となったのが、生化学工業株式会社の**「シーエスバリア」**です。
シーエスバリアは粉末状の癒着防止材で、手術した部分に散布すると水分を吸収して膨らみ、組織と組織の間に一時的な「バリア」を作ります。その後、膨潤した成分は7日後までに体内へ吸収され、代謝・排泄される仕組みです。
実際に癒着は減るの?
開腹直腸切除術を受けた118人を対象とした比較試験では、シーエスバリアを使用した58人と、癒着防止材を使用しなかった60人を比較しています。
その結果、癒着が確認された割合は、シーエスバリア群の44.8%に対して無処置群では93.3%でした。また、重度の癒着についても、シーエスバリア群5.2%、無処置群28.3%とされています。資料では、本品との因果関係がある有害事象は発生しなかったと報告されています。
保険償還価格案は1g当たり34,100円です。
2.難治性てんかんの原因を探す「細径深部電極」
薬を使っても発作を十分にコントロールできない「薬剤抵抗性てんかん」では、発作の原因となっている脳の場所を正確に見つけることが非常に重要です。
しかしMRIや脳波などの体の外から行う検査だけでは、発作の起点を特定できない患者さんもいます。
そこで行われる検査の一つが、SEEG(定位的頭蓋内脳波検査)です。
SEEGでは、頭蓋骨に小さな穴を開け、細い電極を脳の中へ正確に留置して、脳の深い部分から直接脳波を記録します。今回保険適用予定となった「細径深部電極」と「アンカーボルト」は、このSEEGに使用する医療機器です。
資料では、細径深部電極は1回の検査で平均10本程度使用するとされています。さらに7か国2,012例を対象とした比較研究では、SEEGによっててんかん原性領域を特定して切除した症例について、従来の硬膜下電極を用いた方法と比較した結果も紹介されています。
保険償還価格案は、細径深部電極が1本107,000円、アンカーボルトが1個25,400円です。
原則として、薬剤抵抗性てんかんの術前精査としてSEEGを実施する際に、施設基準を満たす医療機関で使用した場合に算定でき、細径深部電極は1手術につき原則10本が限度とされています。
3.甲状腺手術で「副甲状腺」を見つけやすくするPTeyeシステム
甲状腺のすぐ近くには「副甲状腺」という非常に小さな臓器があります。
副甲状腺は血液中のカルシウムを調節する重要な役割を持っていますが、甲状腺手術の際には周囲の組織と見分けることが難しく、誤って摘出してしまうことがあります。
そこで登場したのが、**「PTeyeシステム」**です。
PTeyeは近赤外線を利用して副甲状腺が発する「自家蛍光」を測定し、術者が副甲状腺を識別するのを支援します。あくまで医師が目視で見つけた組織の識別を支援する装置であり、装置だけで自動的に手術するものではありません。
甲状腺手術を受けた154例のランダム化比較試験では、副甲状腺の平均検出数はPTeye使用群で3.81個、目視群では2.73個でした。
さらに、副甲状腺を誤って摘出した割合は、PTeye群5.2%、目視群20.8%と報告されています。
PTeyeについては医療材料そのものに価格を設定するのではなく、新しい医療技術として評価される予定で、甲状腺・副甲状腺手術で使用した場合には3,130点の技術料を準用する案となっています。
4.前立腺手術後の尿失禁に「自分の脂肪由来細胞」を使う新治療
泌尿器科領域で特に注目されるのが、「セルーション セルセラピーキット SUI」です。
前立腺癌や前立腺肥大症の手術後には、尿道を締める括約筋の働きが低下し、咳やくしゃみ、立ち上がったときなどに尿が漏れる「腹圧性尿失禁」が起こることがあります。
今回の技術では、患者さん自身から採取した皮下脂肪から細胞を分離・洗浄・処理し、得られた細胞を尿道周囲へ注入します。
対象となるのは、前立腺肥大症または前立腺癌の手術後に発生した軽度~中等度の腹圧性尿失禁で、行動療法や薬物治療では十分な効果が得られなかった患者さんです。
どれくらいの効果がある?
医師主導治験では、評価可能だった43人のうち、治療後52週時点などで1日の尿失禁量が50%以上減少した患者さんは37.2%(16人)でした。
一方で、50%以上改善しなかった患者さんも61.5%おり、尿失禁量が治療前より増えた患者さんも25.6%存在しています。したがって、「誰にでも大きな効果がある治療」と捉えるのではなく、適応を慎重に判断する必要があります。
保険償還価格案は、キット1個あたり860,000円。さらに自家脂肪注入「50mL未満・1回目」の22,900点を準用する案となっています。
なお、この治療には厳しい施設要件が設けられる予定です。下部尿路機能障害の診療経験が5年以上ある泌尿器科医に加え、形成外科医、麻酔科医の配置や緊急手術が可能な体制などが求められています。
つまり、保険適用されたとしても、すべての泌尿器科クリニックですぐ受けられる治療ではありません。
5.結核菌や非結核性抗酸菌をまとめて調べる「MEBGEN抗酸菌核酸同定キット」
2026年10月1日に保険収載予定なのが、「MEBGEN 抗酸菌核酸同定キット」です。
PCR-rSSO法という方法を使い、喀痰や培養した菌のDNAから、結核菌や非結核性抗酸菌(NTM)を調べます。
この検査の大きな特徴は、結核菌2菌種と非結核性抗酸菌26菌種、合計28菌種を同定できることです。
保険点数案は963点です。
ただし、すべての患者さんに自由に実施できる検査ではありません。
資料では、BCG膀胱内注入療法後に発熱などがあり「結核菌なのかBCG株なのか」の鑑別が必要な患者さんや、肺結核と肺非結核性抗酸菌症の両方が疑われる患者さんなどが対象とされています。
特に泌尿器科では、膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法が行われるため、BCG治療後の感染症を評価する場面で注目される検査といえます。
6.HTLV-1関連脊髄症(HAM)の活動性を調べる「CXCL10検査」
もう一つ2026年10月から保険収載予定なのが、「CXCL10 ELISA『コスミック』」です。
HTLV-1関連脊髄症(HAM)は、HTLV-1への感染を背景として脊髄に慢性的な炎症が起こる病気です。
CXCL10検査では髄液中のCXCL10という物質の濃度を測定し、HAMの病気の活動性を「高・中・低」の3段階で判断する際の補助として使用します。
疾患活動性を把握することで、治療薬の選択や予後予測に役立てることが期待されています。
資料に示された性能評価では、疾患活動性「高」を判定する基準について感度93.33%・特異度100%、「低」の判定について感度81.82%・特異度100%とされています。
保険点数案は1,923点。
原則として年1回、新たにHAMと診断された患者さんや、すでに診断されていて疾患活動性が「高」または「中」と評価されている患者さんなどが対象となる予定です。治療内容を変更するなど医学的必要性がある場合には、追加で年1回算定できる仕組みが示されています。「保険適用」=誰でもすぐ受けられる、ではない
新しい医療技術が保険適用になると、「これで全国どこの病院でも受けられる」と思われることがあります。
しかし実際には、そうとは限りません。
今回の新技術にも、対象となる病気や重症度、これまでに行った治療、医師の経験年数、専門医の配置、設備、緊急手術体制など、細かな算定要件が設けられているものがあります。
特にSEEGによるてんかん診断や、自家脂肪由来細胞を利用した尿失禁治療などは、専門性の高い医療機関で実施されることが想定されています。
一方、新しい検査や医療機器が公的医療保険で評価されることは、これまで一部の患者さんしか利用できなかった医療技術が、適切な患者さんへ届きやすくなる重要な一歩でもあります。
まとめ
今回の中医協資料では、2026年10月と12月に向けて、診断・手術・再生医療に関係するさまざまな新技術の保険適用が示されました。
中でも、難治性てんかんに対するSEEG、甲状腺手術を支援するPTeye、前立腺手術後の尿失禁に対する脂肪由来細胞を用いた治療などは、今後の医療に大きく関わってくる可能性があります。
ただし、今回公表されている内容は2026年9月16日時点の「案」「収載予定」を含んでいます。実際の診療で使用する際には、最終的な告示・通知、算定要件や施設基準を確認することが重要です。
