【施行後レポート】令和8年度診療報酬改定でクリニック経営はどう変わったのか?
- 4 日前
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2026年6月1日、令和8年度診療報酬改定が施行されました。
今回の改定は、診療報酬全体では令和8年度と令和9年度の2年度平均で+3.09%です。ただし、令和8年度単年度では+2.41%、令和9年度は+3.77%とされており、単純に「今年からすべての医療機関の収入が3.09%増える」という意味ではありません。
クリニック経営で特に重要なのは、基本診療料そのものの増減よりも、次の項目です。
医療DX関連加算の再編
在宅医療における体制評価の強化
物価対応料の新設
20ベースアップ評価料の拡充
施設基準の届出とレセコン設定
改定後は、同じ患者数・同じ診療内容であっても、届出やシステム対応の状況によって、月数万円から十数万円以上の収益差が生じる可能性があります。
令和8年度診療報酬改定の結論
クリニック経営の観点から今回の改定を一言でまとめると、次のようになります。
診察を行うだけではなく、在宅医療、医療DX、職員の賃上げ、情報連携などの体制を整備した医療機関を評価する改定である。
初診料や再診料だけを確認して改定対応を終えるのでは不十分です。
施設基準の届出、レセプトコンピューターの設定、院内掲示、電子処方箋などの実装状況まで確認しなければ、本来算定できる点数を取りこぼすおそれがあります。
1.初診料は291点で据え置き、再診料は76点へ
令和8年度改定後の基本点数は、次のとおりです。
項目 | 改定後 |
初診料 | 291点 |
再診料 | 76点 |
外来管理加算 | 52点 |
外来・在宅物価対応料・初診時 | 2点 |
外来・在宅物価対応料・再診時等 | 2点 |
外来・在宅物価対応料・訪問診療時 | 3点 |
初診料は291点で据え置かれ、再診料は75点から76点へ1点引き上げられました。
さらに、令和8年度以降の物価上昇へ対応するため、基本診療料とは別に「物価対応料」が新設されています。
令和8年度は初診時・再診時等が2点、訪問診療時が3点です。
令和9年度は、それぞれ4点、4点、6点となる予定です。
初診料が据え置きでも、実質的には2点の上乗せ
初診料自体は291点のままですが、物価対応料2点を算定することで、実質的には初診時の基本部分が293点相当になります。
ただし、レセコンのマスター設定が更新されていなければ、物価対応料を請求できない可能性があります。施行後は、実際のレセプトでコードが反映されているかを確認する必要があります。
2.外来管理加算52点は廃止されず継続
改定前には、外来管理加算の廃止や評価の見直しを求める意見が中医協で出されていました。
しかし、令和8年度改定では廃止されず、52点で継続されています。
外来管理加算は、入院中ではない患者に対し、対象外となる処置・検査等を行わず、計画的な医学管理を行った場合に算定します。
注意すべきポイント
「再診患者だから自動的に算定できる」という点数ではありません。
診察内容、実施した検査・処置、医学管理の内容などを確認し、算定要件を満たす必要があります。電話等再診の場合は外来管理加算を算定できないことも、点数表上で明記されています。
今回継続されたからといって、将来も必ず維持されるとは限りません。廃止を求める議論が行われた事実を踏まえると、次回改定に向けても動向を確認しておく必要があります。
3.在宅医療充実体制加算は単一建物1人で800点
在宅医療では、従来の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が見直され、在宅医療充実体制加算として再編されました。
在宅時医学総合管理料における点数は、次のとおりです。
単一建物診療患者数 | 改定前 | 改定後 |
1人 | 400点 | 800点 |
2~9人 | 200点 | 400点 |
10~19人 | 100点 | 200点 |
20~49人 | 85点 | 170点 |
その他 | 75点 | 150点 |
単一建物診療患者が1人の場合は、400点から800点へ倍増しています。施設入居時等医学総合管理料についても、単一建物1人の場合は300点から600点に引き上げられました。
在宅患者20人の場合の簡易試算
単一建物1人の区分に該当する患者が20人おり、全員について要件を満たすと仮定します。
改定前:400点×20人=8,000点
改定後:800点×20人=16,000点
差額:8,000点=月額8万円
この部分だけでも、月8万円、年間では96万円の差になります。
ただし、これは単純な試算です。在宅医療充実体制加算は、地域の重症在宅患者に質の高い診療を提供するための体制や、一定の実績などを求める評価です。すべての訪問診療クリニックが自動的に算定できるわけではありません。
また、令和8年度改定では、在宅医療・訪問看護について評価の強化だけでなく、実態に応じた適正化も行われています。「在宅医療全体が一律に増点された」と捉えないことが重要です。
4.医療DXは「導入しているか」から「どこまで実装しているか」へ
今回の改定では、医療DX関連の評価が大きく再編されました。
従来の医療DX推進体制整備加算や医療情報取得加算などが整理され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が設けられています。
算定時期 | 区分 | 点数 |
初診時 | 加算1 | 15点 |
初診時 | 加算2 | 9点 |
初診時 | 加算3 | 4点 |
再診時 | 共通 | 2点 |
入院時 | 加算1/2 | 160点/80点 |
医科クリニックでは、初診時に実装水準に応じて15点、9点、4点、再診時に2点となります。
評価には、マイナ保険証の利用、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス、サイバーセキュリティー対策などの実装状況が関係します。
つまり、今回の医療DX評価は単なる「システム導入済み」という自己申告ではなく、実際にどの機能を利用できる状態にしているかが収益に反映される設計です。
DX対応による月間収益差の試算
算定可能な初診が月400件、再診が月2,000件あるクリニックを想定します。
電子的診療情報連携体制整備加算1の場合は、
初診:400件×15点×10円=6万円
再診:2,000件×2点×10円=4万円
合計:月10万円
となります。
ただし、電子的診療情報連携体制整備加算は、明細書発行体制等加算1点との併算定ができません。実際の純増額を試算する際は、従来算定していた加算を差し引いて比較する必要があります。
明細書発行体制等加算を算定していた施設との比較では、上記モデルの実質的な差は、おおむね月7万6,000円となります。
加算1と加算3の差
初診400件の場合、加算1の15点と加算3の4点との差は11点です。
400件×11点×10円=月4万4,000円
同じ「DX対応施設」であっても、実装水準によって年間50万円を超える差になる可能性があります。
5.ベースアップ評価料の届出も収益を左右する
職員の賃上げに対応する外来・在宅ベースアップ評価料も見直されています。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、令和8年6月から令和9年5月まで、新たに賃上げを行う施設では初診時17点、再診時等4点です。
令和7年度以前から継続して賃上げを行っている施設では、初診時23点、再診時等6点となります。
区分 | 初診時 | 再診時等 |
新たに賃上げを行う施設 | 17点 | 4点 |
継続的に賃上げを行う施設 | 23点 | 6点 |
点数だけを見ると魅力的ですが、ベースアップ評価料は職員の賃金改善に使用することが前提です。
また、算定を開始する前月までの届出、中間報告書、実績報告書などの手続きが必要です。単なる増収項目ではなく、給与制度や就業規則、賃金台帳まで含めた管理が求められます。
6.施行後に確認したいクリニックの実務チェック
改定対応は「届出を出したら完了」ではありません。施行後の最初の請求では、次の項目を確認します。
施設基準
届出が必要な加算について、地方厚生局で受理されているかを確認します。提出しただけで安心せず、受理状況の公表ページまで確認することが重要です。
レセコン・電子カルテ
新しい点数マスターが反映されているか、テスト患者や実際のレセプトで確認します。
特に確認したいのは、物価対応料、電子的診療情報連携体制整備加算、ベースアップ評価料、在宅医療充実体制加算です。
併算定できない項目
新設加算だけを追加すると、従来の加算との重複請求が発生する可能性があります。
電子的診療情報連携体制整備加算と明細書発行体制等加算のように、併算定できない組み合わせを確認します。
院内掲示・ウェブサイト
施設基準で掲示が求められている項目は、院内だけでなく、医療機関のウェブサイトへの掲載要件も確認します。
院内掲示、ホームページ、実際の運用内容が食い違わないようにする必要があります。
改定前後の収益比較
6月以降のレセプトデータを、次の項目ごとに分けて確認します。
初診料・再診料
外来管理加算
医療DX関連加算
物価対応料
ベースアップ評価料
在宅医療関連加算
患者数だけでなく、患者1人当たりの平均点数を見ることで、算定漏れや設定ミスを発見しやすくなります。
7.積極投資した医療機関と未対応施設の差が広がる
今回の改定では、初診料が大幅に上がったわけではありません。
一方で、医療DX、在宅医療、職員の賃上げなどに取り組む医療機関には、複数の評価項目が用意されています。
外来患者数の多いクリニックでは、医療DX関連加算、物価対応料、ベースアップ評価料を合計すると、月数万円から十数万円以上の請求額になる場合があります。
在宅医療を行うクリニックでは、患者数や建物区分、施設基準によって、さらに大きな差になる可能性があります。
ただし、点数を取るためだけにシステムを導入するのは危険です。
導入費、保守費、職員の作業時間、賃上げ原資、報告業務まで含めて、投資回収を判断する必要があります。
8.横浜・神奈川のクリニックが今後取るべき対応
横浜市や神奈川県内では、駅前型クリニック、医療モール、在宅療養支援診療所など、医療機関の形態が多様化しています。
患者数の多い都市型クリニックでは、1件当たり数点の加算でも、年間では大きな金額になります。
一方、在宅医療を強化するクリニックでは、24時間対応、看取り、重症患者への対応、連携体制など、診療報酬の施設基準と実際の運営体制を一致させる必要があります。
令和8年度改定への対応では、次の3点を同時に進めることが重要です。
算定可能な項目を把握する
必要なシステム・人員・施設基準を整える
届出後の算定実績と費用対効果を検証する
診療報酬改定は、医事課だけの問題ではありません。
院長、事務長、医療事務、システム会社、社会保険労務士、税理士などが連携して対応する経営課題です。
よくある質問
Q.令和8年度診療報酬改定はいつ施行されましたか?
2026年6月1日に施行されました。薬価については2026年4月施行、材料価格については6月施行と、適用時期が異なる項目があります。
Q.診療報酬は3.09%上がったのですか?
3.09%は令和8年度と令和9年度の2年度平均です。令和8年度単年度は+2.41%、令和9年度は+3.77%とされています。個々の医療機関の売上が一律に3.09%増えるわけではありません。
Q.外来管理加算は廃止されましたか?
廃止されていません。令和8年度改定後も52点で継続されています。ただし、算定要件を満たす必要があります。
Q.医療DXに対応しないと減算されますか?
すべての未対応施設が直ちに一律減算されるという制度ではありません。ただし、電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準を満たさなければ、初診時15点・9点・4点、再診時2点の加算は算定できません。結果として対応施設との収益差が生じます。
Q.在宅医療を始めれば800点を算定できますか?
訪問診療を行うだけで自動的に800点を算定できるわけではありません。在宅医療充実体制加算の施設基準や実績要件を満たし、単一建物診療患者数などの区分に応じて算定します。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、初診料は291点で据え置き、再診料は76点へ1点引き上げられました。
外来管理加算52点も継続されています。
しかし、クリニック経営への影響が大きいのは、基本診療料の1点増ではありません。
医療DX、在宅医療、物価対応料、ベースアップ評価料を正しく届け出て算定できているかが、改定後の収益を左右します。
改定施行後は、届出状況だけでなく、実際のレセプトに新しい点数が反映されているかを確認し、6月以降の診療単価を改定前と比較することが重要です。
厚生労働省からは施行後も疑義解釈や通知の訂正が公表されています。
最新資料を継続的に確認し、院内運用と請求内容を随時見直す必要があります。
※本記事は厚生労働省が公表した資料を基に作成した一般的な情報です。
実際の算定に当たっては、最新の告示、通知、疑義解釈、地方厚生局の案内をご確認ください。
